福岡の警備員の一人旅No.501 中年警備員がひとりで歩いた世界遺産・屋久島の大自然と縄文杉の静けさに癒される魂のリトリート旅

世界遺産

福岡市で警備員として働く私は、日々の喧騒と緊張感のなかでふと「自然の中で心をリセットしたい」と思うことがあります。今回の一人旅で選んだのは、日本が誇る世界遺産のひとつ、「世界遺産・屋久島」です。
その圧倒的な自然、古代から変わらぬ森の姿、そして深い静寂に包まれたこの島は、まさに“魂を整える場所”でした。



屋久島の場所と気候

屋久島は鹿児島県の南方、九州本土からおよそ60kmの位置に浮かぶ円形の島です。面積はおよそ500平方キロメートルで、島の中央部には九州最高峰の宮之浦岳(標高1,936m)がそびえています。

特徴的なのはその気候。山の上と下でまるで異なる気象条件を持ち、年間降水量は日本の中でもトップクラス。「ひと月に35日雨が降る」とも言われるほどで、湿潤な気候がこの島の神秘的な森を育てています。私が訪れたのは4月中旬。新緑がまぶしく、山の中は霧がかかって幻想的な雰囲気に包まれていました。



屋久島の歴史と特徴

屋久島には人が暮らし始めた歴史は古く、約7,000年前の縄文時代にはすでに定住があったとされています。古代から木材資源として重要視され、特に「屋久杉」は樹齢1,000年以上の巨大杉として知られ、江戸時代には藩の財政を支える木材として伐採が進みました。

その後、伐採は規制され、現在では「屋久杉の森」として貴重な自然遺産として保護されています。1993年には、白神山地とともに日本で初めてのユネスコ世界自然遺産に登録されました。



文化的・宗教的価値

屋久島には、縄文時代から続く自然崇拝の文化が色濃く残されています。苔むした森や神秘的な川、神々しくそびえる屋久杉には、今でも神聖な意味合いが宿っていると考えられています。

島民の間では「山は神の住まい」とされ、屋久杉は神そのものと見なされることもあります。森に入る際に挨拶をする習慣、登山前に手を合わせる風習など、自然と共に生きる精神文化が現代にも根づいています。



縄文杉と屋久杉の神秘

屋久島の最大の見どころの一つが「縄文杉」です。推定樹齢は2,000年〜7,000年とも言われ、巨大な幹はまさに圧倒的な存在感を放ちます。
私も早朝から約10時間かけて縄文杉トレッキングに挑みました。最初は険しい道のりに不安を感じましたが、途中にある「ウィルソン株」や「大王杉」、苔むした渓谷などが、その疲れを忘れさせてくれます。

そして目の前に現れた縄文杉。その姿を見た瞬間、言葉を失いました。何千年もこの地に立ち続けてきたその命の重みに、ただただ頭が下がる思いでした。写真や映像では伝わらない“圧”があります。



その他の魅力的なスポット

屋久島は森だけではありません。モッチョム岳や白谷雲水峡もまた魅力的なトレッキングエリアで、苔むす森と清流、霧が作り出す光のベールに包まれて歩く時間は、まさに自然と一体になる感覚を味わえます。

また、島の南部には「千尋の滝(せんぴろのたき)」という巨大な花崗岩の断崖を流れ落ちる名瀑があり、その雄大なスケールは忘れられません。温泉好きの私にとっては、「平内海中温泉」も外せないスポット。満潮時には海の中に沈む天然の露天風呂で、夕陽を眺めながらのひとときは最高の癒しでした。



年間訪問者数と観光の傾向

屋久島には年間でおよそ30万人が訪れています。登山・トレッキング目的の訪問者が多く、特にゴールデンウィークや夏休み、紅葉シーズンがピークです。一方、冬場は人も少なく、落ち着いた旅を楽しめる時期でもあります。

環境保護意識が高い地域であるため、エコツーリズムが盛んで、ガイド付きの登山ツアーなども豊富です。自然への敬意を持って旅することが、訪問者にも求められます。



旅行ルートと中年警備員の旅スタイル

私の旅は以下のルートで楽しみました。

1日目:福岡空港 → 鹿児島空港 → 屋久島空港 → 安房の宿にチェックイン → 夕方は千尋の滝へ
2日目:早朝から縄文杉トレッキング(約10時間) → 夕方に温泉で疲労回復
3日目:白谷雲水峡トレッキング(苔むす森) → 昼食後、屋久島空港から帰路

屋久島は自然が相手なので、無理をせずに自分の体力や天候と相談しながら旅を組み立てるのがポイントです。私は、日頃の警備業務で鍛えた“足腰”を信じて、ややアグレッシブな行程を組みましたが、実際に達成感はひとしおでした。



旅を終えて思うこと

自然は雄弁ではないけれど、確かな力で心を癒してくれます。屋久島の森は、「がんばらなくても、ここにいていい」と、そっと語りかけてくれました。
中年になり、若い頃のように勢いだけで動けなくなってきた今、自分のリズムで歩ける旅の価値を改めて感じます。

世界遺産・屋久島は、ただの観光地ではありません。それは“生き方を考えさせてくれる場所”でした。縄文杉の前で、私はそっと手を合わせました。静かな森の中で、静かに自分を見つめ直す──そんな旅が、ここにはあります。



人生の途中で少し疲れた大人にこそ、屋久島の自然は、力をくれる。そんな確信とともに、私は島をあとにしました。心に残ったのは、金ではなく緑の記憶。そして、静かな勇気でした。