福岡市で警備員として働く日々は、どうしても時間と情報に追われがちです。そんな私が、ある時ふと「静かな場所で、ゆっくり呼吸をしたい」と思い立ちました。今回の旅先に選んだのは、徳島県の小さな町・上勝町。聞いたことがある人は少ないかもしれませんが、実はこの町、環境先進地域として世界中から注目を集めている場所です。そして訪れてみれば、その自然、文化、人の温かさ、すべてが予想以上に心を癒してくれました。
小さな町に広がる深い魅力 上勝町の人口と面積
徳島県上勝町の人口はおよそ1,400人ほど。面積は約109平方キロメートルと、広大な自然を抱える山間の町です。四国山地の懐に抱かれたこの町では、標高差による多彩な地形が広がり、どこを歩いても緑に囲まれた風景が目の前に広がります。
高齢化が進みつつも、住民一人ひとりが地域を支える「自立と循環」の精神を持って生活していることが、町全体から伝わってきます。人の少なさが逆に豊かさを生んでいる、そんな町です。
山間に抱かれた上勝町の位置と気候
上勝町は徳島県の中央部、勝浦郡に位置し、徳島市内から車で1時間半ほどの距離にあります。標高が高いため、夏は涼しく、冬は寒さがやや厳しいですが、四季の移ろいをしっかりと感じられる気候です。
特に秋の紅葉と春の新緑は目を見張る美しさで、どこを歩いても自然の中に溶け込んでいくような気持ちになります。私が訪れたのは初秋でしたが、空気の清々しさに思わず深呼吸したくなるような、そんな環境でした。
ゼロ・ウェイストと葉っぱビジネスに見る上勝町の歴史と産業
上勝町の最大の特色と言えば「ゼロ・ウェイスト宣言」でしょう。町全体でごみを極限まで出さない暮らしを目指し、分別はなんと45種類以上。旅人にとっては少し驚く仕組みですが、それが町の日常となっていることに感動すら覚えます。
さらに、もう一つの注目は「葉っぱビジネス」。料理の飾り付けに使われる紅葉や山の葉を高級料亭に出荷するというユニークな産業で、多くの高齢者が活躍しています。農業の枠を超えた知恵と工夫がこの町の大きな魅力でもあります。
心を打たれる上勝町の観光名所たち
上勝町には、派手さはないけれども、じんわりと心に沁みる観光スポットが点在しています。まず最初に訪れたのは「樫原の棚田」。日本の棚田百選にも選ばれた美しい段々田んぼで、山の傾斜に沿って規則正しく並ぶ田の風景は、ただ見ているだけで心が落ち着いていきます。朝靄がかかる時間帯はまるで水墨画のような幻想的な景色に出会えます。
次に足を運んだのが「月ヶ谷温泉」。川沿いにある静かな温泉で、露天風呂からは那賀川の流れと山並みが望めます。旅の疲れを芯から癒してくれる、心安らぐ場所でした。
また、上勝町を訪れたら外せないのが「ゼロ・ウェイストセンター」。地元の資源循環の拠点で、町のゴミ処理の仕組みを学べるだけでなく、建物自体が環境に配慮されたデザインになっていて、サステナブルな暮らしのヒントが詰まっています。
人と自然がつながる祭りとイベント
小さな町でも、年間を通してさまざまなイベントが開催されています。中でも印象的だったのが「棚田のあかり」。秋の夜、棚田に数百のキャンドルが灯される幻想的なイベントで、地元の人も観光客も一緒になって幻想的な風景を楽しみます。
他にも、春の「上勝花まつり」や、ゼロ・ウェイストにちなんだワークショップなど、自然と人との共生を感じるイベントが数多く行われており、観光客としてではなく、町の一員のような気持ちになれるのが嬉しいポイントです。
素朴だけど忘れられない郷土料理
上勝町で味わった料理の中でも、とりわけ心に残ったのが「アメゴの塩焼き」です。地元の清流で育った川魚は臭みがなく、皮はパリッと、中はふんわり。シンプルなのに、こんなにも深い味わいがあるのかと感動しました。
また、「柚子味噌田楽」や「山菜ごはん」など、山の恵みを生かした料理が並び、まさに自然と一体となった食体験ができます。地元の食堂でいただいた手作りの料理は、どれも優しさと温かさに満ちていて、気持ちまでほっこりと癒されました。
旅の思い出を持ち帰るお土産
上勝町のお土産として人気なのが、「葉っぱのしおり」や「手染めのふきん」など、地元の素材を使ったクラフト製品です。一つ一つ手作りされた雑貨は、どれも味わいがあり、お土産にするのが惜しくなるほどでした。
さらに、柚子の加工品もおすすめです。柚子胡椒、柚子ドレッシング、柚子ジャムなど、香り高く料理にも使いやすいものが多く、私も思わず何種類かまとめて購入しました。福岡の自宅で使うたびに、上勝町の空気を思い出せる気がしています。
福岡市から上勝町への旅ルート
福岡市から徳島県上勝町へは、新幹線で岡山駅まで出て、そこから特急うずしおで徳島駅へ向かうルートが一般的です。徳島駅からはレンタカーを利用して、国道438号を通って山道を進んでいくと上勝町に到着します。
道中は曲がりくねった山道が続きますが、そのぶん車窓からの風景は絶景の連続。途中で車を止めて写真を撮りたくなるようなスポットも多く、移動自体がすでに旅の一部だと感じました。
旅を終えて振り返る静かな感動
福岡の喧騒から抜け出し、上勝町の静かな山里で過ごした数日間。そこで出会ったのは、自然を大切にしながら、丁寧に暮らす人たちの姿と、自分の内側と向き合う静かな時間でした。
ゼロ・ウェイストの町として注目を浴びる上勝町ですが、私にとっては、それ以上に「人と自然の距離がちょうどよい町」でした。一人で過ごす旅だからこそ、その魅力がじっくりと心に染み込んできました。
疲れた心をリセットしたいとき、誰にも気を遣わず、自分のペースで旅をしたいとき、上勝町はぴったりの場所です。次は紅葉の季節に、もう一度訪れてみようと思います。そしてその時もまた、警備服を脱ぎ捨てて、山の空気に深呼吸をしに行きたいと思います。